本記事は、欧州連合(EU)や各国当局(EFSA、BfR、英国FSA等)がアルロース(D-プシコース)をどのように評価・規制しているかを整理したものです。医療・法的アドバイスを目的とせず、現時点の情報をまとめて解説しています。
目次
1. 背景:アルロース(Allulose)と欧州での注目
アルロース(D-プシコース) は、砂糖に近い甘味(約70%)ながら**カロリーほぼゼロ(~0.4 kcal/g以下)**とされる希少糖(きしょうとう)の一種です。
- 肥満や糖尿病の管理に寄与する可能性が示唆され、米国や日本などで低カロリー甘味料として利用が進んでいます。
- 一方、**欧州(EU)**では過去に一般流通の実績がないため、**Novel Food(ノベルフード)**として正式な安全性審査が必要となり、現在は承認前の段階です。
2. ノベルフード(Novel Food)の概要
2-1. Novel Foodとは?
- Novel Foodは、1997年5月15日以前にEU域内で「人の通常の食事」に使用実績がない食品・成分を指します。
- EU規則 (EU) 2015/2283 により、ノベルフードとして承認されるには欧州食品安全機関(EFSA)の安全性評価を経た上で欧州委員会・加盟国による承認が必要です。
2-2. なぜアルロースがノベルフードに?
- アルロースはEUで伝統的消費実績が確認されておらず、既存の甘味料リスト(E番号取得など)にも該当しません。
- そのためNovel Foodルートで個別に安全性審査が行われています。
3. EFSA(欧州食品安全機関)の評価状況
3-1. アルロースの申請と追加情報要求
- 2018年頃から複数の企業がアルロースのNovel Food承認をEU委員会へ申請。
- EFSAのNDAパネル(栄養・新規食品・食物アレルギー)が申請書類を精査し、**追加データを要求(クロックストップ)**している段階。
- 2023年までにまだサイエンスオピニオン(正式科学的見解)を発表しておらず、EFSAは「追加データの提出後に評価を再開する」と公表。
3-2. Novel Food承認の見通し
- EFSAが肯定的意見を示せば、欧州委員会と加盟国投票を経て、Novel Foodリストにアルロースが登録される流れとなる。
- 追加資料提出のタイミング次第では、2024〜2025年に承認されるとの見通しが取り沙汰される。
4. 各国のアルロース評価:BfR・英国FSA・ANSES等
4-1. ドイツBfR(連邦リスク評価研究所)
- BfR意見書No.001/2020(2020年1月)で、アルロースの安全性について**「データ不足で明確な結論が出せない」**と表明。
- **腸内細菌(Klebsiella属)**の増殖懸念を指摘し、大量・長期摂取時のリスクを検討する必要性を強調。
- ただちに深刻なリスクが確認されているわけではなく、EFSA評価の行方を注視。
4-2. 英国FSA(食品基準庁)
- Brexit後、独自のNovel Food承認制度を運用中。
- 2021年にSavanna Ingredients社がアルロース申請を提出し、Advisory Committee on Novel Foods and Processes(ACNFP)で審査中。
- EFSA評価を参考にしつつ、最終的に肯定的であれば英国でも承認される可能性が高い。
4-3. フランスANSESなど他機関
- フランスANSESはアルロースに特化した評価報告を公表していない。
- 甘味料全般に慎重姿勢を示し、EFSA判断を待つ状況。
5. 安全性・リスク評価:各国共通の懸念とデータ
5-1. 主な懸念点
- 消化器への影響
- 過剰摂取で下痢や腹部膨満感を起こす可能性。
- 体重60kgの成人で1回20〜30g程度までは有害症状が少ないという研究も。
- 腸内細菌叢への影響
- BfRが指摘するように、Klebsiella属など病原性細菌の選択的増殖リスク。
- 長期・大量摂取時の影響データはまだ不十分。
- 潜在的アレルギー・毒性リスク
- 毒性試験で大きな問題は報告されていない。
- 製造酵素由来の不純物などもEFSAが食品酵素評価で安全と結論づけている。
5-2. 海外の安全性データ(米国・日本・韓国など)
- 米国FDA: GRAS自己認証により実質的に使用可能。栄養表示で「糖類」から除外するガイダンスも発表。
- 日本: 2012年から素材扱いで使用が進む。多くの機能性表示食品などに利用。
- 韓国: 低カロリー甘味料として承認され、多数の飲料・菓子に活用。
6. 今後の方針・まとめ
6-1. EFSA承認のカギと展望
- EFSAが肯定的サイエンスオピニオンを出せば、Novel Food承認→EU域内で合法利用が可能に。
- 英国も含め、欧州市場でのアルロース普及が進む可能性。
- ただし、腸内細菌リスクや長期摂取安全性などまだ研究継続が必要。
6-2. 今後の研究課題
- 大規模長期的ヒト臨床研究: 安全量や効果の確立。
- 腸内細菌叢への影響: BfR懸念の検証。
- 食品法規や表示ルール: EUや各国でどのようにラベリング・甘味料表示するか、承認後の実務も焦点。
FAQ(よくある質問)
- Q: いまアルロースをEUで使えないの?
A: 現時点でNovel Food認可前のため、公式には使用不可です。承認が得られれば合法利用となります。 - Q: 安全性に問題はないの?
A: 大きな毒性報告はありませんが、BfRが腸内細菌リスクを指摘するなど、まだデータ不足の面があり、EFSA評価結果を待つ必要があります。 - Q: 英国はEUと同じ結論になりそう?
A: 英国FSAが独自評価を進めていますが、EFSA評価を参考にすると表明しており、同様の結論になる可能性が高いです。 - Q: いつ頃承認される?
A: 追加データ提出や審査期間によるため確定的ではありませんが、2024~2025年頃に結論が出ると推測されています。
参考文献・URL
- Regulation (EU) 2015/2283 (Novel Foods): https://eur-lex.europa.eu/
- EFSA Novel Food: https://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/novel-food
- BfR Opinion No.001/2020: https://www.bfr.bund.de/ (ドイツ語)
- FSA(UK) Novel Foods Guidance: https://www.food.gov.uk/business-guidance/novel-foods
- ACNFP Discussion Paper on Allulose: https://acnfp.food.gov.uk/
- ANSES(フランス): https://www.anses.fr/
Hossain A, et al. (2015).“Rare sugar D-psicose…” https://doi.org/10.1016/j.jbiosc.2014.12.006
まとめ
- EUではアルロースがNovel Foodとして申請されており、EFSAが安全性評価を続行中です。
- ドイツBfRは腸内細菌への影響を理由に慎重姿勢、英国FSAもBrexit後の独自審査を進行。
- EFSAが肯定的結論を下せば、欧州委員会・加盟国投票を経てユニオンリスト掲載→正式承認となる見込み。
- 食品企業や健康志向のユーザーにとって、アルロースが**「低カロリー甘味料」**として欧州市場で普及するかどうか注目が集まっています。
注意:ここで示した情報は公的機関の公表を基にしており、今後の審査状況や科学的知見の更新によって変わる可能性があります。具体的な法令・ガイドラインは各国当局の最新情報をご確認ください。