アルロース(D-プシコースとも呼ばれる)は、カロリーがほとんどなく血糖値への影響が少ない天然の希少糖として、健康志向の高まりとともに世界中で注目を集めています。米国や日本、韓国などですでに食品添加物として承認されている一方、EUでは規制プロセスが異なるため、承認状況に違いがあります。本記事では、EUにおけるアルロースの規制の現状と今後の見通しについて詳しく解説します。
EUでの承認状況
アルロースは現在、EUでは「ノベルフード(Novel Food)」として分類されており、食品添加物(甘味料)としての公式な承認はまだ得ていません。この分類には重要な背景があります。EUの食品添加物規則では、単糖類や二糖類などの通常の糖質は甘味料添加物に分類されないため、アルロースは既存の甘味料リスト(E番号)には含まれていないのです。
そのため、アルロースをEU域内の食品に使用するにはノベルフードとしての許可が必要となりますが、現時点では欧州委員会の「ユニオンリスト」(承認されたノベルフード一覧)に未収載であり、正式な市場流通は認められていません。
申請状況
2018年以降、複数の企業がアルロースのノベルフード認可を欧州委員会に申請しています:
- CJ-Tereos社
- Petiva社
- Samyang社
- Tate & Lyle社
- Savanna社
これらの申請は欧州食品安全機関(EFSA)によって安全性評価が進められていますが、2023年時点での公表情報によれば、審査は一時中断(「クロックストップ」と呼ばれる状態)しており、申請者に追加データが要求されている段階です。EFSAが必要な追加資料を受け取り、安全性評価を完了すれば意見書が採択され、その後EU加盟国と欧州委員会による承認プロセスへと移行します。
早ければ2024~2025年頃にEUでアルロースが承認される可能性もありますが、データ提出状況に依存しており、現状では承認時期は確定していません。
輸入規制と関税
現時点でアルロースはEU域内で食品用途に未承認の状態であるため、食品原料としての輸入・販売は事実上禁止されています。未承認のノベルフードを含む製品はEU市場に出回ることが認められず、違反した場合は規制当局による措置の対象となります。
関税分類上、アルロースは単糖の一種であり、特定のHSコード(関税番号)に該当すると考えられますが、まだ承認前であるため特段の関税優遇や輸入枠は設定されていません。したがって現在は商業目的でのアルロース原料の輸入自体が制限されており、研究用途などの特殊な場合を除き一般流通はしていない状況です。
将来的にEUでアルロースがノベルフードとして承認された場合、通常の食品原料と同様に輸入が可能となり、標準的な関税(他の糖類と同程度)が適用されると見込まれます。EUは砂糖代替による糖類摂取削減を政策課題としているため、アルロース承認後は輸入供給も促進される可能性があります。ただし、EU域内での生産動向(酵素技術による製造など)も踏まえ、将来的に関税政策が議論される可能性はあります。現段階では具体的な関税措置は発表されていません。
表示義務・ラベリング
アルロース使用食品の表示に関しては、承認後に適用されるルールが現在検討課題となっています。アルロースは食品添加物ではなく原材料扱いとなる見込みであるため、製品の原材料名表示欄には「アルロース」あるいは「D-プシコース」と明記する必要が生じるでしょう。
栄養成分表示上の扱いも重要な論点です。アルロースは単糖に分類されますが、消化吸収されにくく熱量は約0.4 kcal/gと低いという特性があります。このため、通常の「糖類」と同様に扱うか、特別な表示方法を採るかが議論されています。
現行のEU表示規則では「糖類(sugars)」は単糖・二糖の総和と定義されるため、構造的にはアルロースも糖質にカウントされます。しかし、血糖値への影響が少ない特性から、米国FDAでは2019年に栄養表示で糖類に計上しない特例が認められた経緯もあり、EUでも将来的に表示基準の調整が検討される可能性があります。
いずれにせよ、消費者への適切な情報提供のため、アルロースを使用した旨の表示義務(例:「低カロリー糖使用」などの注記)が付加される可能性があります。実際の表示要件は承認時の規則で詳細が定められる見通しです。
安全性評価とリスク見解
EFSAの評価状況
欧州食品安全機関(EFSA)はまだアルロースの正式な安全性評価結果を公表しておらず、追加資料の提出を待っている状況です。ただし、アルロース製造に用いられる酵素(D-タガトース3-エピメラーゼ)の安全性評価は既に行われており、食品酵素として安全上の問題がないとの肯定的見解が2023年に示されています。これはアルロースそのものの安全性ではありませんが、製造プロセス上の懸念はクリアされていることを意味します。
ドイツBfRの見解
各国の食品安全機関もアルロースのリスクを注視しています。特に、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は2020年に見解を公表し、現状のデータではアルロースの安全性について最終結論を出すには不十分であると指摘しました。
BfRが特に注目しているのは、かつて希少糖の一種であるトレハロースが特定の病原菌(クロストリジウム・ディフィシル)の院内感染増加に関与した可能性が報告された事例です。これを踏まえ、アルロースでも腸内の病原性細菌(例えばクレブシエラ属)の増殖を選択的に促進する可能性が理論的に指摘されており、特に免疫が脆弱な入院患者などでリスクとなり得る点が懸念されています。
もっとも、この評価は理論的検討に基づくものであり、現在のところ決定的な有害影響の証拠は示されていません。BfRは追加の研究結果を待ち、必要に応じてアルロース添加食品中の特定菌モニタリングなどのリスク管理策も検討すべきと提言しています。
他地域での安全性評価
欧州以外では、米国FDAがアルロースをGRAS(一般に安全と認められる物質)に分類しており、日本や韓国でも既に市販食品への使用が認められています。これらの国々では大きな健康被害報告はなく、安全に使用されている実績があることから、EUにおいても適切な摂取範囲であれば健康リスクは低いと考えられます。
ただしEU当局は「科学的証拠に基づく確認」を重視する方針を持っているため、EFSAの正式評価が出るまでは慎重な姿勢を維持しています。今後、必要な毒性試験やヒト試験データが出揃い次第、リスク管理措置(許可条件や摂取量上限設定など)も議論される見通しです。
将来的な規制の見通し
アルロースは砂糖代替によるカロリー・糖質低減という観点で期待されており、EUも他地域に遅れることなく承認に向かう可能性が高いと考えられます。EFSAの安全性評価が完了し肯定的な意見書が採択されれば、EU法では7か月以内に加盟国投票と欧州委員会による承認可決が行われるスケジュールが規定されています。
各社の申請が進行中であることから、今後のEU法の改正(ノベルフードリスト更新)によってアルロースの使用条件が明文化されるでしょう。例えば、使用可能な食品カテゴリーや最大使用量、また「低エネルギー甘味料」としての位置づけなどが決められる見通しです。加えて、栄養表示基準での糖類への算入是非や、「〇〇%砂糖をアルロースで代替」などの表示許可についても議論が予想されます。
政策的には、欧州各国が進める肥満・糖尿病対策において砂糖削減は重要課題となっており、アルロースのような新規甘味素材の活用には政策的後押しもあります。実際、ドイツの連邦食糧・農業省(BMEL)は加工食品中の砂糖・脂肪・塩分削減戦略にアルロースを代替甘味素材の一つとして挙げています。
このような背景から、科学的安全性が確認され次第、EU全体での法改正によりアルロースが解禁・普及する方向性が予想されます。今後はEFSAの評価動向や、具体的な使用条件、栄養表示ルールなどの詳細が注目されるところです。
よくある質問(FAQ)
Q: アルロースとは何ですか?
A: アルロースは自然界に存在する希少糖の一種で、D-プシコースとも呼ばれます。化学構造上は単糖類(フルクトースの立体異性体)ですが、通常の砂糖と比較して約70%の甘さを持ちながら、カロリーはわずか0.4kcal/gと非常に低いのが特徴です。体内でほとんど代謝されず、血糖値やインスリン値の上昇もほとんど引き起こさないため、糖尿病や肥満対策として注目されています。
Q: EUでアルロースは現在使用できますか?
A: 現時点(2025年3月)では、EUでアルロースは食品添加物として正式に承認されておらず、「ノベルフード」として申請・評価中の段階です。そのため、EU域内での食品への使用や、アルロースを含む食品の輸入・販売は認められていません。
Q: いつ頃EUでアルロースが承認される見込みですか?
A: 正確な時期は確定していませんが、現在のプロセスが順調に進めば、早ければ2024年後半から2025年にかけて承認される可能性があります。ただし、欧州食品安全機関(EFSA)が申請者に追加データを要求している段階であり、データ提出から評価完了までの期間によって変動します。
Q: アルロースを含む製品をEUに輸出できますか?
A: 現時点では、食品用途としてアルロースを含む製品をEUに輸出することはできません。未承認のノベルフードを含む製品はEU市場での流通が禁止されており、違反した場合は規制当局による措置の対象となります。研究用など特殊用途に限り例外がある場合もありますが、商業目的での輸出入は事実上不可能です。
Q: アルロースが承認された場合、栄養表示はどうなりますか?
A: 承認後の具体的な表示ルールはまだ決定されていませんが、原材料表示では「アルロース」または「D-プシコース」と明記する必要が生じる見込みです。栄養成分表示については、構造上は単糖類であるため「糖類」に含まれる可能性がありますが、米国のように特例として糖類に計上しない扱いになる可能性もあります。これは今後のEU当局の判断次第です。
Q: アルロースの安全性に懸念はありますか?
A: 現時点でEFSAはアルロースの最終的な安全性評価を完了していませんが、製造プロセスに使用される酵素については安全性を確認しています。ドイツのBfRは、理論的な懸念として腸内病原菌への影響の可能性を指摘していますが、決定的な有害影響の証拠は示されていません。米国、日本、韓国などではすでに食品利用が認められており、大きな健康被害報告はなく、適切な使用であれば安全と考えられています。
Q: 他の国ではアルロースはどのように規制されていますか?
A: 米国ではFDAがアルロースをGRAS(一般に安全と認められる物質)として認定しており、2019年には栄養表示上で「加算糖類」に含めない特例を認めています。日本では1995年に食品添加物として認可され、韓国でも使用が認められています。多くのアジア諸国でも承認が進んでおり、EUは主要地域の中では承認が比較的遅れている状況です。
Q: アルロースが承認された場合、どのような食品に使用される見込みですか?
A: 砂糖代替として、主に以下のような食品への使用が予想されます:
- 低糖質・低カロリー飲料
- ベーカリー製品、ケーキ、クッキーなどの菓子類
- ジャム、ゼリー、スプレッド
- アイスクリームやフローズンデザート
- シリアル製品
- 機能性食品・飲料(スポーツドリンク、サプリメント)
- 糖尿病患者向け特別用途食品
Q: EU域内でアルロースの製造は行われていますか?
A: 現時点ではEU域内での商業的な製造は限定的ですが、承認後は域内での生産が本格化する見込みです。アルロースはフルクトースから酵素(D-タガトース3-エピメラーゼ)を用いて製造され、この製造酵素自体はEUで安全性評価が完了しています。承認後は欧州企業による生産体制の構築も予想されます。
まとめ
EUにおけるアルロースの規制状況をまとめると、以下のようになります:
- 現状:ノベルフードとして申請中、未承認
- 申請者:CJ-Tereos社、Petiva社、Samyang社、Tate & Lyle社、Savanna社など
- 評価機関:欧州食品安全機関(EFSA)が評価中、追加データ要求中
- 輸入:現時点では食品用途での輸入は事実上不可
- 表示:承認後のルールは検討中(米国では糖類非算入の特例あり)
- 安全性:製造酵素は安全性確認済み、最終評価は継続中
- 見通し:2024〜2025年頃の承認可能性、肯定的評価後は7ヶ月以内に決定
アルロースは健康志向の高まりとともに世界的に注目される甘味料であり、EUでも科学的評価を経て市場に登場する日は近いと考えられます。食品・飲料メーカーや輸出入業者は、今後のEFSAの評価動向や承認スケジュールに注目しておくべきでしょう。