本記事は、現時点で公表されている欧州各国(EFSA、BfR、FSAなど)のアルロースに関する情報を整理・紹介するもので、医療や法的アドバイスを提供するものではありません。正式な承認・規制判断は各国政府・EU当局の決定に従ってください。
目次
1. 導入・背景:アルロース(D-プシコース)とは?
アルロース(D-プシコース) は、希少糖(きしょうとう)の一種 として知られています。
- 砂糖(スクロース)の約70%の甘み を持ち、カロリーは0.4 kcal/g以下 と非常に低い。
- 米国などでは低カロリー甘味料としての使用例があり、血糖値や体重管理への有益な可能性 が研究されています。
- EU(欧州連合)では、Novel Food(ノベルフード) としての承認を目指してメーカー各社が申請中。
- しかし、現時点でまだ正式な食品承認は得ておらず、各種公的機関が慎重に審査 を進めています。
2. EFSAの評価状況:Novel Food申請と追加情報要求
2-1. EFSA(欧州食品安全機関)の役割
- EFSA (European Food Safety Authority) はEU域内での食品の安全性評価を担当し、Novel Food(従来のEU圏で一般的に食経験のない食品)の審査を行う機関です。
- アルロースは、砂糖の代替甘味料として使用される可能性があるため、Novel Foodとしての安全性評価を受けています。
2-2. Novel Food審査の進捗
- 現在、EFSAはアルロースに関する正式な科学的意見書(サイエンスオピニオン)をまだ出していません。
- 2023年3月のNDAパネル会合 でアルロースに関する複数の申請を検討し、追加情報を申請者に要求 している段階です。
- EFSAは「追加データが提供され次第、再び評価を進める」と表明しており、評価完了後、意見書が採択されればEU承認へ向かう見通しです。
2-3. 将来性
- もしEFSAが「安全」と判断し肯定的な意見書を出した場合、欧州委員会と加盟国がNovel Foodとして正式に承認する手続きを進めることになります。
- EU市場でのアルロース使用解禁が期待されているため、欧州の食品業界からも注目が集まっています。
3. ドイツBfRの見解:安全性データ不足と腸内細菌への懸念
3-1. BfRの立場
- ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR) は2020年1月に科学的見解を公表し、「現時点のデータでは健康影響を十分に評価できない」 としました。
- EFSAの審査を待つ立場ではありますが、追加データがなければリスク評価が困難と表明しています。
3-2. 腸内細菌に対する懸念
- BfRは、アルロースが腸内細菌(ちょうないさいきん)に与える影響に注目。
- クロストリジウムやクレブシエラ属など、一部病原性を持ち得る菌がアルロースを代謝し、薬剤耐性を獲得する可能性を理論的に指摘。
- これは「トレハロースが特定の病原菌台頭に寄与した」という報告を踏まえた予防的注意に近いもの。
- ただし、現時点でただちに懸念されるリスクは無いとしつつ、さらなる研究が望ましいとしています。
4. 英国FSAの動向:Brexit後の独自承認ルール
4-1. 英国FSA(食品基準庁)の役割
- 英国はEU離脱(Brexit)後、EUとは独立したNovel Food制度を運用。
- 英国食品基準庁(FSA)およびスコットランド食品基準局(FSS)がNovel Foodの安全性評価を担当。
4-2. アルロース申請状況
- 2021年6月、ドイツ企業Savanna Ingredients社がアルロースをNovel Foodとして申請し、FSAが受理して評価を開始。
- FSAの新食品・プロセス委員会(ACNFP)でディスカッションペーパーが作成され、追加情報要求やリスク評価を進行中。
- EFSAの評価を参考にすると述べており、EUと同様の結論になる可能性が高い。
4-3. 今後の承認見通し
- 評価結果が肯定的であれば、法改正により英国国内でアルロースがNovel Foodとして認可される可能性あり。
- Brexit後でも、EUと同様な流れになる公算が大きい。
5. 他の欧州機関(フランスANSESなど)のスタンス
- フランスANSES は現時点でアルロースに関する特別な評価報告書を公表していません。
- ただし、甘味料全体に対して懐疑的な立場を示しているため、今後EFSA評価を待って独自に意見を出すかもしれません。
- 他の欧州各国の保健当局も、EFSAの結論を尊重する方向とみられ、独自評価を行う例は少ないです。
6. 今後の展望:承認の可能性と市場影響
6-1. EFSAの意見書がカギ
- EFSAが「安全」と判断すれば、欧州委員会と加盟国が最終承認する流れとなり、欧州市場での使用解禁が進む見込み。
- 英国もFSAが肯定的なら、市場投入が認められる可能性が高い。
6-2. 食品業界への影響
- もし承認されれば、低糖質・低エネルギー甘味料として多くの製品(飲料、菓子など)に使われる可能性。
- 消費者の糖質オフ需要や健康志向を背景に、アルロース市場拡大が期待される。
FAQ(よくある質問)
- Q1: 現在EUではアルロースは合法なの?
A: まだNovel Foodとして正式承認されていないため、商業的な販売は認められていません。EFSA評価後に承認されれば合法利用が可能になります。 - Q2: BfRの懸念はどの程度深刻?
A: BfRは「腸内細菌への影響」を指摘しましたが、直ちに深刻なリスクがあると結論づけてはいません。追加情報を求める予防的な立場です。 - Q3: 英国FSAはEUと同じ判断を下す?
A: Brexit後もEFSA評価を参照しているため、類似の結論が導かれる可能性は高いです。ただし独立審査である点には留意が必要です。 - Q4: アルロースは完全に安全?
A: 安全性試験で大きな問題は報告されていませんが、長期的・高用量での影響等、不明点も残されています。公的機関の最終判断待ちです。 - Q5: 承認されれば市販される?
A: はい、承認が得られれば合法的に市場投入が可能となり、低糖・低カロリー製品が増えると期待されています。
参考文献・URL
- EFSA Novel Food: [https://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/novel-food]
- BfR意見書(No.001/2020): [https://www.bfr.bund.de/] (ドイツ語)
- FSA (UK) Discuss Paper on Allulose: [https://acnfp.food.gov.uk/]
- ANSES (フランス): [https://www.anses.fr/]
論文例: PMC9343225 (Rare sugar and health)
まとめ
- アルロース(D-プシコース)は、EUでNovel Foodとして承認されておらず、EFSAが評価を継続中。
- ドイツBfRは腸内細菌への影響を懸念し、追加データを求める立場。
- 英国FSAもBrexit後の独自審査を行い、EFSAの結果を参考に承認可否を判断する見込み。
- フランスANSESは公式なアルロース単独評価を出していないが、甘味料全般には慎重姿勢。
- 今後、EFSAが肯定的意見を示しEU承認に至れば、アルロースが欧州市場で健康志向の甘味料として流通拡大する可能性がある。
注: 本記事は公的機関の文書や研究をまとめたもので、特定の製品・効果を保証するものではありません。実際の使用や健康リスクについては、公的機関の公式発表や医療専門家のアドバイスを必ずご確認ください。